大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)452号 判決

弁護人Aの控訴の趣意は記録中の同弁護人名義の控訴趣意書記載の通りであるからこゝに之を引用するが、之に対する当裁判所の判断は次の通りである。

職権を以つて、原判示第一の(イ)の事実関係の原判決を審査するに、同判決は、その判示第一の(イ)において、被告人が昭和二十八年二月中頃から同年六月十八日までの間前後九回に亘り同判決末尾添附一覧表記載の日時場所において加藤きよ子外七名(中一名は二回)の婦女を公衆衛生又は公衆道徳上有害な接客婦の業務に就かせる目的で接客婦として紹介し以つて職業紹介を為した事実を認定し、之を併合罪として処断し、更にその理由説明の部において、「本件起訴状別表記載の一、二、三、四、六、七、八、一〇、一一、一三の事実中有料職業紹介事業を行つたとの点は原判示(二)の被告人に対する岐阜地方裁判所大垣支部における職業安定法違反被告事件の判決の言渡の日である昭和二十八年六月二十二日以前の事犯であり、右判決の既判力が及ぶものと解せられるので、該部分に対する起訴は既に確定判決を経た事件に対する起訴であると謂ふべく、刑事訴訟法第三百三十七条第一号により免訴の言渡を為すべきものであるが、右は公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つたと云ふ所為と一所為数法の関係にあるものとして起訴されたものと認められ一罪の一部に該当するから特に主文において免訴の言渡をしない(若し検察官においてこの点についても裁判を求めんとするならば新たなる起訴によらず訴因の追加の申立をすれば足りるのである)」との説明を加へていることが明かである。之を本件起訴状別表の記載と対比すると、原判決は右起訴状別表記載の事実中、前掲各事実の中公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業の紹介を行つたと云ふ所為と有料職業紹介事業を行つた所為につき之を一所為数法の関係があつて両者は一罪であると判断し乍ら、前者のみを後者から切離し、前者は之を併合罪として有罪の認定を為し後者は前掲確定判決の既判力が及び免訴すべきものと判断していることが明白である。一面原判決認定の(二)の確定判決は原判示の通り昭和二十八年六月二十二日職業安定法違反の罪により岐阜地方裁判所大垣支部において罰金一万円に処せられ、該判決は同年七月七日確定したこと及び同判決の認定した事実は被告人が法定の除外事由がないのに昭和二十七年四月一日から同年十一月二十七日までの間前後九回に亘り有料又は無料の職業紹介事業を為したことであることは記録中の右確定判決の謄本の記載に徴して明かである。

而して原判決が、本件起訴状別表記載の前記一、二、三、四、六、七、八、一〇、一一、一三の各有料職業紹介事業を為したと云ふ事実につき、前記確定判決の既判力が及んでいると判断したのは、原判決の前掲の理由説明によつては必ずしもその意味鮮明ではないが、本件起訴状別表記載の前掲各有料職業紹介事業を行つた事実と前記確定判決において認定された同種の行為とは、いわゆる事業犯であつて前後を通じ前記確定判決の言渡の日までの行為は凡て一罪を構成するとの見解に従つたものと解するの外はない。果して然らば、原判決が有料職業紹介事業を行つた事実を之と一所為数法の関係ありとなす公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つた行為を切離して前叙の如く有罪と認めたのは如何なる理由にもとづくものか原判決の理由説明では之を知るに由はないが、凡そ確定判決の既判力は事件が単一かつ同一である限りその事件の全体に及ぶものと解すべきであり、事件が単一かつ同一である為には被告人が単一でありかつ基本的事実関係が同一であることを要するものと解すべきである。而して基本的事実が同一である場合とは行為及び結果を含めた自然的社会的事実が同一である場合ばかりでなく法律上数個の行為を一罪として処遇される場合も亦当然包含されるものと謂わなければならない。

之を本件について観るに、本件起訴状別表記載の事実中前掲各有料職業紹介事業を行つたとの事実は、原判示(二)の確定判決が認定した同種の行為と前後を通じていわゆる事業犯として一罪を成すものと解するを相当とし、又右起訴状記載事実中右有料職業紹介事業を行つた所為と公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業を紹介した所為とは原判決の判断の通り一個の行為であつて数個の罪名に触れる場合に該当し、両者は法律上の一罪を構成するものと解すべきである。従つて、原判決が原判示(二)の確定判決が認定した有料又は無料の職業紹介事業を行つたとの事実と、前記起訴状別表記載の事実中の右と同種の事業を行つたとの事実とが一罪であつてこの部分につき右確定判決の既判力が及び免訴さるべきものとした原判決の判断は正当であるが、之と一所為数法の関係にある(原判決もその様に判断していることは前説明の通りである)原判示第一の(イ)同別表(イ)記載の事実中各公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業の紹介を為した所為につき免訴の言渡を為さず有罪の認定を為したのは畢竟既判力に関する法理を誤解し、免訴すべき事実につき有罪の言渡を為した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明白であるから、原判決中判示第一の(イ)の事実関係の同判決はこの点において到底破棄を免れないのでこの部分については弁護人の論旨に関する判断を省略する。次に、弁護人の原判示第一の(ロ)及び第二の(イ)の認定事実中同判示宇野たき子、中野末子をいづれも接客婦として紹介したとの事実は公衆衛生又は公衆道徳に有害な行為ではなく、又売春を目的とする接客婦なる地位はいわゆる職業ではないとの趣旨の控訴趣意につき考究するに、原判決が右事実関係の証拠として挙示している各証拠の内容を具さに検討すると、被告人は原判決認定の通り宇野たき子及び平野末子をいづれも原判示の如き特種飲食店の接客婦として紹介したこと及び右接客婦は単に店頭において来客に酒食の応接、接待を為す許りでなく、是等の客との間にいわゆる売淫行為を為すものであることを明認することが出来る。固より売淫行為を為すこと自体が一の職業として公認せられないものであることは所論の通りであるが、原審の認定に係る被告人が紹介した職業と謂ふのは、特種飲食店の接客婦として紹介した事実を職業の紹介と認めたものと解すべく、斯かる接客婦の地位は社会通念に照し、その人の社会生活上の地位を為すものであつて之を職業と認めることは寧ろ当然と謂わなければならない。而して斯かる職業を有するものがこの職業と不即不離の関係において売淫行為を為す以上はこの部分の行為は公衆衛生にも亦公衆道徳にも有害な行為であることは之亦社会通念上極めて明白であると謂わなければならない。即ち本件の場合の如く接客婦としての職業と、之と表裏一体の関係を為す売淫行為を為す者を紹介した以上は、職業安定法の規定する公衆衛生並びに公衆道徳に有害な職業の紹介を為した場合に該当するものと解するを相当とするから、この点に関する原判決の認定は正当であつて、原判決には所論の如き判決に影響を及ぼすべき事実誤認の違法はないのでこの論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 小林登一 裁判官 栗田源蔵 裁判官 石田恵一)

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